内科疾患 (Medical)

導入:多様なサイン、隠れた危機

内科疾患は、その範囲の広さと症状の多様性から、救急現場で最も診断能力が試される分野かもしれません。「お腹が痛い」「意識がおかしい」「気分が悪い」— そんな一見すると曖昧な訴えの裏には、一刻を争う重大な病態が隠れていることがあります。

外傷のように目に見える損傷とは異なり、内科疾患では患者さんの訴え、バイタルサイン、身体のわずかな変化から、パズルのピースを組み合わせるように病態を推測していく必要があります。

このページでは、救急現場で遭遇する代表的な内科疾患の概要と、私たちがどのようにしてその隠れた危機を見つけ出し、立ち向かうのかを解説します。


内科疾患の解説記事一覧

急性腹症 (Acute Abdomen)

  • 概要: 突然発症する激しい腹痛の総称です。その原因は虫垂炎から、大動脈瘤破裂といった極めて致死率の高いものまで様々です。現場では、痛みの場所や性質から緊急性を判断し、適切な鎮痛と迅速な搬送を行います。
  • → 詳しい解説記事「腹痛に潜む罠:急性腹症へのアプローチ」はこちら

アナフィラキシーとアレルギー反応 (Anaphylaxis and Allergic Reaction)

  • 概要: 特定の物質に対する体の過剰なアレルギー反応です。特に、血圧低下や呼吸困難を伴うアナフィラキシーショックは、命に直結します。治療の絶対的な主役は、アドレナリン(エピネフリン)の迅速な筋肉注射です。
  • → 詳しい解説記事「一刻を争うアレルギー:アナフィラキシーとの戦い」はこちら

行動異常 (Behavioral Emergencies)

  • 概要: 精神的な問題だけでなく、低血糖や頭部外傷、薬物など、身体的な問題が原因で異常な行動が見られることもあります。まずは安全を確保し、身体的な原因がないかを慎重に評価することが重要です。
  • → 詳しい解説記事「行動の裏にあるサイン:行動異常への対応」はこちら

脳卒中 (Stroke)

  • 概要: 脳の血管が詰まる(脳梗塞)か、破れる(脳出血)ことで、脳の細胞がダメージを受ける病気です。発症から治療開始までの時間が、その後の後遺症を大きく左右します。「Time is Brain(時は脳なり)」が合言葉です。
  • → 詳しい解説記事「時は脳なり:脳卒中との時間との戦い」はこちら

高血糖 / 低血糖 (Hyperglycemia / Hypoglycemia)

  • 概要: 血糖値の異常は、意識障害や昏睡を引き起こすことがあります。特に低血糖は、迅速なブドウ糖の投与で劇的に改善する可能性があります。全ての意識障害の患者さんで、血糖値の測定は必須です。
  • → 詳しい解説記事「意識を操る血糖値:高血糖と低血糖」はこちら

原因不明の低血圧/循環血液量減少症 (Hypotension/Hypovolemia)

  • 概要: 明らかな出血などがないにも関わらず、血圧が危険なレベルまで低下している状態。敗血症や脱水など、体内で起きている「見えない危機」のサインです。迅速な輸液と、昇圧剤の使用を検討します。
  • → 詳しい解説記事「見えない危機:原因不明の低血圧への挑戦」はこちら

産科救急 (Obstetrical Emergencies)

  • 概要: 妊娠・出産は、母体と胎児、二つの命に関わる特殊な状況です。切迫早産、妊娠高血圧、出産時の大量出血など、専門的な知識と迅速な判断が求められます。
  • → 詳しい解説記事「二つの命を守るために:産科救急の現場」はこちら

薬物過剰摂取 (Overdose)

  • 概要: 薬の種類によって、呼吸抑制、不整脈、興奮など、様々な症状が現れます。現場では、呼吸と循環のサポートを最優先しながら、原因薬物に応じた拮抗薬(ナルカンなど)の投与を検討します。
  • → 詳しい解説記事「毒か薬か:薬物過剰摂取へのアプローチ」はこちら

けいれん発作 (Seizures)

  • 概要: 脳の異常な電気的興奮によって引き起こされます。発作が5分以上続く「けいれん重積状態」は、脳に後遺症を残す危険があり、抗けいれん薬の迅速な投与が必要です。
  • → 詳しい解説記事「脳の嵐を鎮める:けいれん発作への対応」はこちら

意識障害 (Altered Mental Status)

  • 概要: 内科疾患の中で最もコモン(ありふれている)かつ、原因が多岐にわたる症候です。血糖、酸素、体温、薬物、感染症など、あらゆる可能性を一つずつ評価し、原因を探っていきます。
  • → 詳しい解説記事「意識の霧を晴らせ:意識障害への鑑別診断」はこちら

敗血症 (Sepsis)

  • 概要: 感染症が引き金となり、全身の臓器が機能不全に陥る、極めて致死率の高い病態です。現場で早期に疑い、大量の輸液を開始することが、救命の鍵を握ります。
  • → 詳しい解説記事「静かなる殺し屋:敗血症との戦い」はこちら