導入:ゴールデンアワーとの戦い
交通事故、転落、暴力事件—。外傷の現場は、目に見える損傷と、刻一刻と失われていく「時間」との戦いです。重篤な外傷を負った患者さんの命運は、受傷から1時間以内に専門的な外科治療を開始できるかにかかっていると言われています。これが「ゴールデンアワー」です。
私たちパラメディックの役割は、このゴールデンアワーの貴重な時間を1秒たりとも無駄にしないこと。現場で生命を脅かす危機(Threat to Life)を迅速に見つけ出して介入し、適切な病院へ、最短時間で送り届けることです。
このページでは、混沌とした外傷現場で、私たちがどのように考え、行動するのか、そのアプローチについて解説します。
外傷の解説記事一覧
胸部外傷 – 見逃せない死の6因子【TAFXXX】
- 概要: 胸部は心臓や肺といった生命維持に不可欠な臓器が収められているため、外傷の中でも特に緊急性が高くなります。私たちは「TAFXXX」という記憶法を使い、絶対に見逃してはならない6つの致死的胸部外傷を瞬時に評価します。
- T: 心タンポナーデ (Cardiac Tamponade)
- A: 気道閉塞 (Airway Obstruction)
- F: フレイルチェスト (Flail Chest)
- X: 開放性気胸 (Open Pneumothorax)
- X: 緊張性気胸 (Tension Pneumothorax)
- X: 大量血胸 (Massive Hemothorax)
- → 詳しい解説記事「TAFXXX:胸部外傷、死の6因子との戦い」はこちら
多発外傷 (Multisystem Trauma)
- 概要: 複数の部位に重篤な損傷を負った状態です。治療の最優先事項は、出血をコントロールし、ショック状態から離脱させることです。現場では、止血帯や創傷充填材による圧迫止血、骨盤骨折に対する骨盤固定、そして大量輸液やトラネキサム酸(TXA)の投与を行います。
- → 詳しい解説記事「全身との戦い:多発外傷へのアプローチ」はこちら
熱傷 (Burns)
- 概要: 熱傷で最も警戒すべきは、気道の熱傷(吸入熱傷)です。顔や首に火傷があったり、鼻毛が焦げていたりする場合、気道が急速に腫れて窒息する危険があります。現場では、気道の評価を最優先し、体の冷却と清潔な保護、そして広範囲の熱傷では輸液を開始します。
- → 詳しい解説記事「炎との戦い、そしてその後:熱傷への初期対応」はこちら
脊椎損傷の評価 (Assessment of Spinal Injury)
- 概要: かつては全ての外傷患者をバックボードに固定していましたが、現在はより慎重な評価が求められます。意識が清明で、首や背中に痛みがなく、手足の動きや感覚に異常がなければ、過度な固定は必ずしも必要ありません。私たちは、脊椎を保護する必要がある患者さんを的確に見極めるための、厳密な評価基準を用いています。
- → 詳しい解説記事「固定か、非固定か:脊椎損傷評価の最前線」はこちら