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パラメディックプログラム卒業式 卒業生代表スピーチ:異国で直面した「英語の壁」と私を救った言葉

1. 異国の地での、私たちだけの「特別」な卒業式

 

皆さん、こんにちは、小玉です。

今回は、私がParamedicプログラムを修了した際に、卒業生を代表して登壇したスピーチの舞台裏をお話ししたいと思います。

正直、あのプログラムを無事に終えられたことだけでも奇跡でした。そして、あの特別な場所、私たち修了生と教職員、そしてご家族だけが集まる、プログラム独自のセレモニーでスピーチすることになったのです。あの壇上に立った時、私は初めてハーバービューのトラウマチームに報告した時と同じくらい、足が震えていました。

なぜ、この式典が特別なのか?その厳しさを物語る数字があります。1年前、私たちは24名のクラスメイトでスタートを切りました。しかし、卒業証書を受け取ったのは、わずか20名です。この卒業式は、最後まで残った私たちが、脱落した仲間の想いも背負いながら、過酷な試練を乗り越えたことを祝福する、魂の集会だったのです。

△卒業生集合写真

2. Paramedicへの道:日本の知識 vs. 英語の壁

 

私が日本の救命士から米国のParamedicへと目標を変えたきっかけは、2017年のKing County Medic Oneでの衝撃的な体験です。日本の限られた処置と薬に対し、米国のParamedicが持つ裁量と手技の多さを見て、「なぜ、こんなにも違うんだ?」という疑問が、私を突き動かしました。

しかし、その道のりは想像以上に過酷でした。

日本の大学の教授にこの夢を伝えた際、私は選考で「お前の英語はひどい(your English was suck)」と痛烈に指摘され、一度は不合格になりました。それでも諦めず、2022年にTCC(タコマ・コミュニティ・カレッジ)に入学したのです。

△卒業生代表スピーチをしている小玉

プログラムを支配した「言語の壁」の恐怖

 

日本の救命士としての医療知識は私を支えてくれましたが、私にとって最大の敵は、常に**「英語」**でした。

想像してみてください。私は留学生として、他の学生の倍以上の学費を払っている。プレッシャーは尋常ではありません。その中で、私は毎回、試験で**再テスト(Retest)**を受けていました。なぜだと思いますか?理由はシンプルです。「試験の半分は、質問が何を意味するのかさえ理解できなかった」からです。すべての試験が、私にとって命懸けの「英語力テスト」だったのです。

そして現場。ER実習で看護師に「IVの時、Blood cultureも採ってくれる?」と聞かれた時、頭の中が真っ白になりました。「ブラッドカルチャー?何それ!?」言いたいことが伝わらない。聞きたいことが聞けない。この語学の壁は、同乗実習で患者さんの問診がうまくいかず、**「このままでは脱落だ」**と指導者に厳しく指摘されるほどの危機に私を追い込みました。

 

3. スピーチの核心:私を救った「彼女の言葉」の真実

 

言葉の壁に打ちのめされ、患者さんの前でただ立ち尽くすことしかできなかったあの時、私を救ってくれたのは、女性の**Prereceptor(指導者)**がかけてくれた、たった一言の決定的な言葉でした。

私はスピーチで、この真実をクラスメイト全員に語りかけました。

 

―― 卒業生代表スピーチより(抜粋)

 

「私には、このプログラムを諦めそうになった夜があります。言葉の壁に打ちのめされ、患者さんの前でただ立ち尽くすことしかできなかった時です。しかし、私の指導者(Prereceptor)は、私を見捨てませんでした。彼女は言いました。『お前は優秀な知識を持っている。だが、言葉はツールにすぎない。Paramedicに必要なのは、患者の心に寄り添う姿勢だ』と。

「このプログラムで学んだ最高の教訓は、完璧な英語ではなく、完璧なParamedicチームの存在です。私たちは、単なる技術者ではなく、互いの弱さを補い、命のために全力を尽くす仲間です。」

 

4. 指導者と仲間への感謝、そしてこれからの使命

 

私は、私たちをプロのParamedicに導いてくれた指導者たちへの感謝を忘れません。

  • Josh(プログラムディレクター):「あなたは私が今まで会った中で最もフレンドリーなディレクターです。あなたは私の人生を変えてくれました。」
  • Missy:「あなたは心臓病学(Cardiology)を教えすぎましたよ(笑)。おかげで、私たちはほとんどのEKGに慣れています!」

そして、卒業生へ向けて。「EMSは楽しく、しかしストレスの多い仕事です。もし壁に直面したら、TCCファミリーに何でも尋ねてください。困難なケースに直面したら、TCCで学んだことを信じ、自分が正しいと思うことを試してください。」

 

△指導者との写真

私は無事にParamedicプログラムを卒業しました。卒業は終わりではなく、無限の責任への挑戦の始まりです。

この挑戦と経験が、現在の日本の救急医療を次のレベルへ導くチャレンジの原点です。言葉の壁に苦しみ、脱落寸前だった私をプロにしてくれた経験を、今後は日体大教員としての教育や海外挑戦のコンサルティングを通じて、全て還元していきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

小玉がお送りする「PARAMEDIC CHALLENGE」、どうぞよろしくお願いいたします!

 

📘 【全文公開】卒業生代表スピーチ(Full Text)

Ladies and Gentlemen, Family, and my classmate in class 47. My name is Kyohei Kodama.
I am nervous like when I gave a report to the trauma team at harbor view medical center for the first time.
Today, I will give you a speech because we are graduating from paramedic school.

I would like to talk about how I decided to come here to become a paramedic.
In 2015, I entered the medic program at a university in Japan. This program is 4 years program.
In February 2017, I attended the program [in King County Medic One], which was my life change.
I was surprised that US medic has tons of medication and many procedures because Japanese medic has only two medications which are so limited.
Why are they so different? I learned for 4 years and has 2 medications?
The US has a 1-year program and 60 medications. At that time, my goal changed from a Japanese paramedic to a US paramedic.

[When applying to grad school,] I was told that my English was terrible.
During grad school, I started to work at ER in Tokyo as a medic, getting great experiences there.
I decided to go to TCC. In February 2022, I moved to the US.
For the first 3 quarters, I needed to pass the English program.

Finally, I found it. Its language is different! English is hard. Everyone is talking too fast.
I couldn’t understand what you guys were saying in almost of parts.
This quarter, we started 10 ER shifts. That was my first time to be a hospital in the US.
So, one of the nurses asked me when you get an IV can you get a blood culture, please?
Blood culture? What is that? The nurse shows me the stuff for blood culture. Oh, I know that one.

And, the third quarter, that was the hardest quarter, right? Classes, labs, clinical sites, and ride sites.
Show up to the class on time, and when you are done, go to the station for the ride and return to school the next morning. I don’t want to do this again anymore.

I don’t think you guys know; I always take a retest every exam.
Do you know why I took a retest? Because every exam was an English test for me. I always got in trouble with exams.
Half of the questions in the exam have no idea what the question means. That’s why I always took the retest.

[I almost gave up due to the language barrier.] However, my female preceptor did not give up on me.
She told me that you have great knowledge. But language is just a tool. What the paramedic needs is to have a passion for the patient.

EMS is a fun but so stressful job. If you face the wall, you can ask anything TCC family; they might make you feel better.
If you face a difficult case, you can try what you think is right. Believe what you learned from TCC.
Josh [Program Director], you are the most friendly program director I have met. You are my life changer. We are appreciated you so much.
Missy, your lecture was awesome; I will bring my country to your lectures.
We are appreciated all of the instructors and preceptors.

Thank you very much to everyone, and congratulations, class 47 and families.
Thank you, everyone. If you go to Japan, let me know I will try to be your free tour guide.
Thank you.

(※日本語訳は、ブログ記事として自然な表現に意訳しています。)

「紳士淑女の皆様、ご家族の皆様、そしてクラス47のクラスメイトの皆さん。小玉です。

今、私は、初めてハーバービュー・メディカルセンターのトラウマチームに報告した時のように緊張しています。今日は、私たちパラメディック課程の卒業を記念して、スピーチをさせていただきます。

私がなぜここに辿り着き、パラメディックになろうと決意したかをお話したいと思います。

2015年に、私は日本の大学の救命士課程に入学しました。これは4年間のプログラムです。

2017年2月、キング郡のメディック・ワンでの同乗プログラムに参加したことが、私の人生を変えました。日本の救命士が非常に限られた2種類の薬剤しか持っていないのに対し、米国のメディックが多くの薬剤と処置を持っていることに衝撃を受けました。なぜこれほど違うのか?4年間学んで2種類?米国のプログラムは1年間で60種類の薬剤を扱います。この時、私の目標は『日本の救命士』から『米国のパラメディック』へと変わったのです。

(編注:渡米前の教授とのやり取りや、最初の選考で英語力が不十分とされたエピソードを語る)

そして、私はTCCに来ることを決意しました。2022年2月に渡米し、最初の3クォーター(学期)は、英語プログラムをパスする必要がありました。

最終的に私が気づいたこと、それは『言葉が違う』ということです!英語は難しく、皆さんが話すスピードが速すぎるため、ほとんどの部分を理解できませんでした。

このクォーターでは、10回のER実習が始まりました。私にとって初めての米国の病院での実習です。救急処置の一部は知っていても、名称が分かりません。ある看護師に『IV(点滴路確保)の時に血液培養も採れますか?』と聞かれ、『血液培養?何それ?』とパニックになりました。彼女が道具を見せてくれて、『ああ、それなら知っている』と分かりました。

そして第3クォーターがやってきました。クラス、実習、同乗。朝早くから授業に出て、終わるとステーションに行って同乗し、翌朝また学校に戻る。もう二度とやりたくない過酷な日々でした。

皆さんはご存じないと思いますが、私は毎回、試験で再テストを受けていました。なぜ再テストを受けていたか?それは、私にとってすべての試験が『英語の試験』だったからです。問題の半分は、質問が何を意味するのかさえ理解できませんでした。それが再テストの理由です。しかし、最終試験はパスしました!

(編注:Prereceptorに助けられたエピソード)

言語の壁に打ちのめされ、諦めそうになった夜もありました。しかし、私の女性の指導者(プリセプター)は、私を見捨てませんでした。彼女は言いました。『お前は優秀な知識を持っている。だが、言葉はツールにすぎない。Paramedicに必要なのは、患者の心に寄り添う姿勢だ』と。

EMS(救急医療サービス)は楽しく、しかし非常にストレスの多い仕事です。壁に直面したら、TCCファミリーに何でも尋ねてください。彼らはあなたを元気づけてくれるでしょう。困難なケースに直面したら、TCCで学んだことを信じ、あなたが正しいと思うことを試してください。

ジョシュ [プログラムディレクター]、あなたは私が今まで会った中で最もフレンドリーなディレクターです。あなたは私の人生を変えてくれました。ミッシー [指導者]、あなたの講義は素晴らしかったです。

全ての教官、指導者に感謝します。

皆様、本当にありがとうございました。そして、クラス47とご家族の皆様、卒業おめでとうございます。

(編注:King County Medic Oneに進む友人へのメッセージを割愛)