BLOG

【私の原点】日本の救急救命士が米国パラメディックになる夢を叶えた「5ヶ年計画」の全貌

はじめに:なぜ「5ヶ年計画」が必要だったのか

「アメリカでパラメディックになる」

数年前、私がそう決意したとき、その目標はあまりにも遠く、巨大で、どこから手をつけていいか分からない、漠然とした「夢」でしかありませんでした。皆さんも今、同じような気持ちかもしれません。しかし、どんなに大きな夢も、具体的なステップに分解し、地図を描くことで、それは「計画」に変わります。

この記事では、私が実際に作成し、実行した「5ヶ年計画」の全貌を公開します。これは、未来のゴールから現在地までを逆算して考える「逆算思考」に基づいています。この思考法は、ゴールまでの距離を可視化し、今やるべきことを明確にしてくれる強力なツールです。この記事が、あなたの漠然とした夢を、実現可能な計画に変えるための最初の羅針盤となることを願っています。

ステップ1:ゴール(5年後)の具体化 – 「どんなパラメディックになりたいか」

計画の第一歩は、5年後のゴールをできるだけ鮮明に、解像度高くイメージすることです。単に「資格を取る」だけでは、計画は立てられません。「達成したい未来は何か」という視点で、現状の制約を一度取り払って考えることが重要です。

私の場合、次のように自問自答を繰り返しました。

  • どの州で働きたいか? 州によって気候や文化はもちろん、パラメディックが従うプロトコル(活動基準)も異なります。自分がどのような環境で働きたいのかを考えることは、学校選びにも直結します。
  • どのような現場で活躍したいか? 大都市の多忙な救急システムで最先端の症例に触れたいのか、地方のコミュニティに根差した医療(Community Paramedicine)に貢献したいのか。あるいは、フライトパラメディックや、山岳・僻地医療(Wilderness EMS)といった専門分野に挑戦したいのか 。具体的なキャリア像を描くことで、必要なスキルや経験が見えてきます。  
  • どのようなスキルを身につけたパラメディックになっていたいか? 小児救急に強い、戦術医療(Tactical EMS)に精通しているなど、自分の専門性をどう高めていきたいかを考えます。これが、大学院への進学など、さらにその先のキャリアプランにも繋がります。

この「未来像の具体化」が、計画全体の方向性を決定づける最も重要なアンカーとなります。

ステップ2:中間目標の設定(3年後〜4年後)- 米国カレッジへの入学とEMT資格取得

5年後の理想像から逆算し、「ゴールを達成するためには、3年後や4年後の時点で何をクリアしている必要があるか?」を考えます。ここが、計画の中でも特に具体的な手続きが絡む、重要な中間目標(マイルストーン)の設定です。

アメリカでパラメディックになるためには、まず学生ビザ(F-1ビザ)を取得してアメリカの大学(University)やコミュニティカレッジに入学することが最初の大きな関門となります。I-20(在留資格証明書)は、この大学・カレッジから合格を得て、学費の支払い能力などを証明した後に発行されるものです。

そして、そのカレッジで必須とされる前提科目(Prerequisites)を履修し、EMT-Basic(EMT-B)のプログラムを修了して資格を取得します。このEMT-Bの資格が、多くのパラメディックプログラムへの「受験資格」となるのです 。 

したがって、この期間の目標は「アメリカのカレッジに入学し、EMT-B資格を取得して、パラメディックプログラムへの出願準備が整っている状態」となります。そのために必要なタスクは、以下のようになります。

  • 具体的なタスク例:
    • 米国大学/コミュニティカレッジへの出願と合格: 自分の目標や英語力に合った学校を選定し、出願書類を準備・提出し、合格を勝ち取ります。
    • 学生ビザ(I-20)の取得と渡航: 大学・カレッジから発行されたI-20を基に、アメリカ大使館でビザ面接を受け、渡航の準備を進めます。
    • 現地での生活基盤の確立: 渡米後すぐに学業に集中できるよう、住居、銀行口座、携帯電話などの生活インフラを整えます。
    • EMT-Basicプログラムの修了と資格取得: カレッジのプログラムの一環として、あるいは並行してEMT-Bのコースを受講し、州またはNREMT(国家レジストリー)の試験に合格します。
    • パラメディックプログラムへの出願準備: EMT-Bとしての実務経験(プログラムによる)や、その他必要な前提科目(生物学など)の単位を取得し、次のステップであるパラメディックプログラムへの出願に備えます。

 

ステップ3:準備期間のタスク洗い出し(1年後〜2年後)- 日本でやるべきこと

中間目標が見えれば、今度は「その中間目標を達成するために、日本にいる最初の1〜2年で何をすべきか」が明確になります。ここが、読者の皆さんにとって最も実践的で、今日から行動に移せるパートです。

  • 具体的なタスク例:
    • 英語力:
      • 目標設定: 志望校の入学要件を調べ、TOEFLやIELTSの具体的な目標スコアを設定します 。  
      • 学習計画: 1年〜1年半前から計画的に学習を開始します。最初の半年〜9ヶ月は中学・高校レベルの文法や単語といった基礎固めに集中し、その後、問題集を使ったスコア対策やアウトプットの練習に移行するのが効率的です。通勤時間などのスキマ時間を活用できるアプリ学習も有効です。
    • 資金計画:
      • リサーチ: 志望校の学費や現地の生活費(家賃、食費、保険料など)を徹底的にリサーチし、必要な総額を把握します。
      • 貯金計画: 総額から逆算して、月々の具体的な貯金額を設定し、計画的に実行します。
    • 情報収集:
      • 学校選定: 複数の大学やカレッジのプログラムを比較検討し、出願要件(生物学の単位が必要かなど)を正確に把握します 。   
      • 専門家の活用: 必要であれば、留学エージェントに相談し、専門的な情報を得たり、手続きのサポートを受けたりします。
    • 国内での経験:
      • 臨床経験: 日本の救急救命士としての臨床経験を一つひとつ大切にします。困難だった症例やチームでの連携経験は、後の志望動機書でアピールできる最高の武器になります 。活動後の振り返りを習慣づけ、自分の判断や行動を言語化する訓練をしておきましょう 。

おわりに:計画は「羅針盤」。完璧でなくても、まず一歩を踏み出す勇気

もちろん、計画がすべて予定通りに進むわけではありません。私も途中で何度も計画を修正しました。大切なのは、計画はあなたを縛る「ルール」ではなく、目的地まで導いてくれる「羅針盤」だと考えることです。

完璧な計画を立てることに時間を使いすぎる必要はありません。この記事を参考に、まずはあなたの「5ヶ年計画」の第一稿を書き出してみてください。その行動こそが、遠い夢を現実に変える、最も重要で力強い第一歩となるはずです。