はじめに:なぜアメリカの授業では「発言」が重要なのか
日本の「静かに講義を聴く」授業スタイルに慣れた私たちが、アメリカの大学で最初に直面する最大のカルチャーショック。それは、授業における「発言」と「議論」の重要性です。
アメリカの大学の授業は、教授から学生へという一方通行の知識伝達の場ではありません。それは、教授が投げかけた問いに対し、学生一人ひとりが自分の考えを述べ、議論を戦わせることで、クラス全体で知識や理解を深めていく「共同作業の場」なのです。
そのため、授業中に質問や発言をすることは、単に「分からないことを聞く」行為ではなく、授業に積極的に貢献している意欲の表れであり、「アピール」として捉えられます。実際に、多くの授業で「授業への貢献度(Participation)」が成績評価の重要な項目として組み込まれているのです。
「沈黙は金」という文化で育った私たちにとって、これは非常に高いハードルに感じられるかもしれません。しかし、これから紹介する心構えとテクニックを身につければ、あなたもこの「アクティブ・ラーニング」の文化に適応し、学習効果を最大化することができます。
発言できない4つの壁と、その乗り越え方
「発言したくても、できない」。その背景には、多くの留学生が共通して抱える心理的な壁があります。私自身も、これらの壁に何度もぶつかりました。
- 「英語に自信がない」という壁
- 思考: 「間違った文法や発音で話したら恥ずかしい」「ネイティブのように流暢に話せない」
- 乗り越え方: 完璧な英語を目指す必要はありません。大切なのは、あなたの「意見」です。多少つたなくても、伝えようとする意志があれば、教授もクラスメイトも真剣に耳を傾けてくれます。
- 「完璧なことを言わなければ」という壁
- 思考: 「的外れなことを言ったらどうしよう」「他の学生のような鋭い意見が言えない」
- 乗り越え方: アメリカの授業では、答えが一つではない問いが頻繁に投げかけられます。重要なのは「正解」を言うことではなく、議論に「参加」し、多様な視点を提供することです。あなたの素朴な疑問や意見が、他の学生の新たな気づきに繋がることも少なくありません。
- 「質問するのが申し訳ない」という壁
- 思考: 「授業の流れを止めてしまうのではないか」「こんなことを聞くのは自分だけかもしれない」
- 乗り越え方: あなたの質問は、クラス全体への貢献です。あなたが疑問に思う点は、他の学生も同じように感じている可能性が高いのです。また、良い質問をするためには、授業内容を深く理解しようと努めている必要があり、それはあなたの学習意欲の証明にもなります。
- 「タイミングが分からない」という壁
- 思考: 「議論が白熱していて、どこで入っていけばいいか分からない」
- 乗り越え方: これは慣れも必要ですが、まずは短い相づちや、他の学生の意見に付け加える形から入るのが有効です。完璧なタイミングを待つよりも、少し強引にでも会話に入っていく勇気が求められます。
明日から使える!発言するための3つのテクニック
心理的な壁を理解した上で、次に行動に移すための具体的なテクニックを紹介します。
- 質の高い質問を「準備」する 授業が始まる前に、その日の範囲を必ず予習しておきましょう。そして、ただ読むだけでなく、「自分ならどう考えるか」という視点を持ち、疑問点をいくつかメモしておきます。 そして、授業中にその疑問が解消されなかった場合、「教科書の〇〇という部分を読んで、私は△△と理解しましたが、□□という点についてはどう考えればよいでしょうか?」というように、自分がどこまで考えたかを示した上で質問します。準備された質問は、あなたの学習意欲を雄弁に物語ります。
- 「オフィスアワー」を最大限に活用する 授業中にどうしても質問する勇気が出なかったり、より深く議論したいテーマがあったりする場合、「オフィスアワー」を使いましょう。これは、教授が学生からの質問や相談のために研究室で待機している時間のことです。 ここでは、1対1で落ち着いて話ができます。授業の質問だけでなく、学習の進め方やキャリアについて相談することで、教授と個人的な信頼関係を築くことができ、それは後の大きな財産になります。
- まずは「相づち」と「付け加え」から いきなりオリジナリティあふれる長文の意見を言う必要はありません。まずは、他の学生の発言に対して、「I agree with his opinion, because…(彼の意見に賛成です。なぜなら…)」や「To add to that point…(その点に付け加えると…)」といった形で、短い理由や補足を加えることから始めてみましょう。 これは、議論に参加する第一歩として非常に有効なトレーニングです。
「Growth Mindset」があなたを救う
最後に、アメリカの教育の根底に流れる最も重要な考え方を紹介します。それは、**「Growth Mindset(成長マインドセット)」**です。
これは、「自分の能力や知性は固定されたものではなく、努力や挑戦によって伸ばすことができる」という信念のことです。このマインドセットを持つ学生は、困難な課題に直面したとき、それを自分の能力不足の証明と捉えるのではなく、成長の機会として捉えます。
授業で発言することも、まさにこの「挑戦」の一つです。
間違えることを恐れないでください。失敗は、あなたが学んでいる何よりの証拠です 。アメリカの教育文化は、その「挑戦する姿勢」そのものを高く評価します。あなたのつたない英語での発言は、決して恥ずかしいことではなく、むしろ成長しようと努力している勇敢な行為として、教授やクラスメイトの目に映るはずです。
「まだうまくは言えない(yet!)」。この「yet」の精神こそが、あなたを成長させ、厳しい大学生活を乗り切るための最大の力となるでしょう。