呼吸器疾患 (Respiratory)

導入:気道は命の道

“Airway is Life” — 気道は命なり。これは救急医療における絶対的な原則です。どんなに心臓が力強く動いていても、どんなに豊富な血液が体内を巡っていても、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する「呼吸」ができなければ、生命は数分と維持できません。

喘息の発作で狭くなった気管支、異物によって塞がれた喉、感染症で腫れ上がった気道—。呼吸器の緊急事態は、そのどれもが一刻の猶予も許されない、最も緊急性の高い状況の一つです。

今回は、この「息をする」という生命の根幹を守るため、私たちパラメディックがどのように考え、気道を開き、呼吸を助けるのか、そのアプローチについて解説します。


呼吸器疾患の解説記事一覧

喘息 (Asthma)

  • 概要: アレルギー反応などによって気道が炎症を起こし、狭くなることで呼吸が苦しくなる病気です。現場での治療の主役は、狭くなった気管支を広げる気管支拡張薬の吸入です。第一選択薬であるアルブテロールに加え、イプラトロピウムを併用することもあります。重症の場合は、ステロイド薬(ソルメドロール)の投与や、CPAPによる呼吸補助も行います。
  • → 詳しい解説記事「嵐のような咳と喘鳴:喘息発作へのアプローチ」はこちら

慢性閉塞性肺疾患 (COPD)

  • 概要: 主に長年の喫煙が原因で、肺の機能が慢性的に低下する病気です。風邪などをきっかけに急激に症状が悪化(急性増悪)し、呼吸困難に陥ることがあります。治療は喘息発作に準じ、アルブテロールイプラトロピウムの吸入、ステロイド薬の投与が中心となります。
  • → 詳しい解説記事「COPD急性増悪:慢性疾患との付き合い方」はこちら

小児の呼吸器救急 (Pediatric Respiratory Emergencies)

  • 概要: 子どもは大人に比べて気道が細く、少しの腫れや炎症でも重篤な呼吸困難に陥りやすいという特徴があります。特に、犬が吠えるような特徴的な咳(犬吠様咳嗽)をする「クループ」では、気道の腫れを強力に引かせるラセミ体エピネフリンの吸入が非常に有効です。
  • → 詳しい解説記事「小さな命を守るために:小児の呼吸器救急」はこちら

上気道閉塞 (Upper Airway Obstruction)

  • 概要: 食べ物などが喉に詰まる「窒息」に代表される、物理的な気道の閉塞です。背部叩打法や腹部突き上げ法(ハイムリック法)で異物が除去できない場合、私たちは喉頭鏡という器具を使って直接喉の奥を観察し、マギール鉗子という特殊なピンセットで異物を取り除きます。それでも気道が開通できない場合は、最終手段として首を切開して気道を確保する輪状甲状膜切開も考慮されます。
  • → 詳しい解説記事「窒息との戦い:上気道閉塞へのステップ」はこちら