導入:気道に起きる嵐
「ヒューヒュー、ゼーゼー」という特徴的な喘鳴(ぜんめい)と、止まらない激しい咳。喘息発作は、アレルギー反応などによって空気の通り道である気管支が炎症を起こし、内側が狭くなることで発生します。これは、気道の中で激しい「嵐」が起きているような状態です。
嵐によって空気の通り道が狭められ、患者さんは息を吸うことはできても、吐き出すことが非常に困難になります。これにより、体内の酸素が不足し、二酸化炭素が溜まっていく、極めて危険な状態に陥ります。
今回は、この気道の嵐を鎮め、患者さんの呼吸を取り戻すため、私たちパラメディックがどのように立ち向かうのか、そのアプローチを解説します。
現場でのアプローチ:嵐を鎮める相棒たち
喘息発作の治療の主役は、狭くなった気管支を広げる「気管支拡張薬」です。私たちは、患者さんの重症度に応じて、これらの薬剤を段階的に、そして組み合わせて使用します。
1. まずは呼吸のサポート
何よりもまず、患者さんの呼吸状態を評価し、酸素投与を開始します。酸素飽和度(SaO2)が93%以上を維持できるように、酸素の流量を調整します。
2. 治療の主役:吸入薬
喘息治療の基本であり、最も重要なのが吸入薬による治療です。
- 第一の相棒:アルブテロール (Albuterol)
気管支の筋肉を直接リラックスさせ、狭くなった気道を広げる、最も代表的な気管支拡張薬です。2.5mgを生理食塩水に溶かし、ネブライザーという吸入器を使って霧状にして吸い込んでもらいます。症状が改善しなければ、繰り返し投与することができます。
- 頼れる援軍:イプラトロピウム (Ipratropium / アトロベント)
アルブテロールとは異なるメカニズムで気管支を広げる効果があるため、アルブテロールと同時に吸入することで、より強力な気管支拡張効果が期待できます。最初からこの2種類が混ざっている「デュオネブ」という薬剤を使用することもよくあります。
3. 呼吸を押し広げる力:CPAP
吸入薬だけでは呼吸の苦しさが改善しない中等症から重症の患者さんには、CPAP(持続陽圧呼吸療法)の使用を検討します。これは、マスクを介して常に一定の圧力を気道にかけることで、狭くなった気道を内側から物理的に押し広げ、呼吸を助ける治療法です。
4. 嵐の火種を消す:ステロイド薬
喘息発作の根本的な原因は、気道の「炎症」です。この火種を消すために、強力な抗炎症作用を持つステロイド薬を投与します。
相棒:メチルプレドニゾロン (Methylprednisolone / ソルメドロール)
中等症から重症の発作に対して、125mgを静脈から投与します。効果が現れるまでには少し時間がかかりますが、根本的な炎症を抑えることで、発作の再燃を防ぐ重要な役割を果たします。
5. 最終兵器:アドレナリン(エピネフリン)
上記の治療に全く反応しない最重症の発作や、アナフィラキシーが関与している喘息に対しては、最終兵器であるアドレナリンの使用を検討します。
使い方: 0.3〜0.5mgを筋肉注射します。アドレナリンの強力な気管支拡張作用と抗アレルギー作用に期待する、まさに切り札です。
特殊部隊:吸入エピネフリン (Nebulized Racemic Epinephrine)
アナフィラキシーが関与している喘息や、気道の上部の腫れが強い場合、アドレナリン(ラセミ体エピネフリン)の吸入が非常に有効です。アルブテロールが気管支という「下流」に作用するのに対し、吸入エピネフリンは気道全体の腫れを強力に引かせる効果があり、特に喉周辺の気道を開くのに役立ちます。

まとめ
喘息発作との戦いは、嵐のように荒れ狂う気道を鎮めるための、段階的かつ多角的なアプローチです。
- まずは吸入薬(アルブテロール+イプラトロピウム)で、狭くなった気道を広げる。
- 効果が不十分なら、CPAPで物理的に気道を押し広げる。
- 根本原因である炎症を抑えるため、ステロイド薬を投与する。
- 最重症例では、最終兵器であるアドレナリンもためらわない。
これらの治療を的確に組み合わせることで、私たちは気道の嵐を鎮め、患者さんに安らかな呼吸を取り戻すのです。