導入:なぜ心疾患は時間との勝負なのか?
心臓は、全身に血液を送り出す、生命のエンジンです。このエンジンにトラブルが発生すると、それは即、生命の危機に直結します。
動悸、息切れ、胸の痛み…これらは、心臓が発する危険なサイン(SOS)です。
心臓が止まってしまえば、脳への血流は数分で途絶え、後戻りできないダメージが始まります。心臓のリズムが乱れれば、血圧を維持できなくなり、重要な臓器が機能不全に陥ります。
私たちパラメディックの役割は、これらのサインから一刻も早く心臓の危機を察知し、電気ショックや薬剤といった「武器」を駆使して、専門医の手に渡るまでの貴重な時間を稼ぐことです。
このページでは、救急現場で遭遇する代表的な心疾患の概要と、私たちがどのように立ち向かうのかを解説します。
心疾患の解説記事一覧
徐脈 (Bradycardia)
- 概要: 心拍数が異常に少なくなる状態(毎分50回未満など)です。めまい、失神、息切れなどを引き起こし、時には心停止に至る危険なサインです。現場では、アトロピンという薬剤の投与や、体外式ペースメーカーによる治療を検討します。
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心原性ショック (Cardiogenic Shock)
- 概要: 心臓のポンプ機能が著しく低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなった結果、血圧が維持できなくなる最も危険なショック状態の一つです。対応としては、輸液の慎重な投与や、ノルアドレナリンなどの昇圧剤の使用を検討します。
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胸痛 / 急性心筋梗塞疑い (Chest Pain / Suspected Acute MI)
- 概要: 心臓の血管が詰まり、心筋が壊死していく、最も緊急性の高い疾患の一つです。現場での主な対応は、アスピリン、ニトログリセリン、そして鎮痛薬の投与が中心となります。
- → 詳しい解説記事「胸痛の現場:心筋梗塞との分秒を争う戦い」はこちら
うっ血性心不全 / 急性肺水腫 (CHF / Acute Pulmonary Edema)
- 概要: 心臓のポンプ機能が低下し、全身に血液をうまく送り出せなくなった結果、肺に水が溜まってしまう状態です。激しい呼吸困難を引きします。治療としては、ニトログリセリンの投与やCPAP(持続陽圧呼吸療法)の使用を検討します。
- → 詳しい解説記事「溺れるような息苦しさ:急性肺水腫への挑戦」はこちら
心肺停止 (Cardiac Arrest)
- 概要: 心臓が停止し、呼吸も止まってしまった状態。救命の鍵は、質の高い胸骨圧迫(HPCPR)と迅速な処置です。さらに、心電図の波形によって治療戦略は大きく二つに分かれます。電気ショックが有効なリズム(心室細動など)と、アドレナリンなどの薬物治療が中心となるリズムがあり、現場での迅速な判断が求められます。
- → 詳しい解説記事「止まった心臓を動かすために:心肺蘇生法の基礎」はこちら
自己心拍再開後の管理 (Post R.O.S.C. Management)
- 概要: 一度止まった心臓が、蘇生処置によって再び動き出した後の、非常に不安定な状態です。血圧の維持、呼吸の管理、そして心停止の原因究明が同時に行われます。
- → 詳しい解説記事「再び動き出した心臓を守る:ROSC後の集中治療」はこちら
頻脈 (Wide/Narrow Tachycardia)
- 概要: 心拍数が異常に速くなる状態で、動悸や失神の原因となります。心室頻拍(VT)など、致死的な不整脈も含まれます。心電図の波形を分析し、使用する薬剤(アデノシン、アミオダロンなど)や電気ショックの必要性を判断します。
- → 詳しい解説記事「暴れる鼓動を鎮めろ:頻脈性不整脈へのアプローチ」はこちら