COPD急性増悪:慢性疾患との付き合い方

導入:静かに進行する病との、突然の対峙

長年の喫煙などが原因で、肺の機能がゆっくりと低下していく病気、それが「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」です。COPDの患者さんは、普段からある程度の息切れや咳と共に生活しています。しかし、風邪や感染症をきっかけに、そのバランスが急激に崩れることがあります。それが「急性増悪」です。

普段より息が苦しい、痰の量が増え色が濃くなった、喘鳴(ぜんめい)がひどい—。これらは、COPDが急性増悪を起こした危険なサインです。慢性的な経過をたどる病気だからこそ、この「急性」の変化を見逃さず、迅速に介入することが重要になります。

今回は、このCOPD急性増悪という、静かに進行する病との突然の対峙に、私たちパラメディックがどう立ち向かうのかを解説します。


現場でのアプローチ:基本は喘息治療と同じ、しかし…

COPD急性増悪の治療は、気管支が狭くなるという点で喘息発作と似ており、治療の基本も共通しています。しかし、COPDの患者さん特有の注意点も存在します。

1. 慎重な酸素投与

COPDの患者さんの中には、体内の二酸化炭素濃度が高い状態に体が慣れてしまっている方がいます。このような方に高濃度の酸素を投与しすぎると、かえって呼吸が抑制されてしまう危険性があります(CO2ナルコーシス)。

そのため、私たちは酸素飽和度(SaO2)をモニターしながら、目標値を90%前後に設定し、必要最小限の酸素を投与するように慎重に調整します。

2. 治療の主役:吸入薬

治療の主役は、喘息と同様に、狭くなった気管支を広げる吸入薬です。

  • アルブテロール (Albuterol): 気管支を広げるための第一選択薬です。2.5mgをネブライザーで吸入します。
  • イプラトロピウム (Ipratropium / アトロベント): アルブテロールと併用することで、より強力な気管支拡張効果を発揮します。この2種類が配合された「デュオネブ」という薬剤もよく使われます。

3. 呼吸を助ける力:CPAP / BiPAP

呼吸が非常に苦しく、体内に二酸化炭素が溜まってきている重症の患者さんには、CPAPやBiPAPといった陽圧換気療法が非常に有効です。マスクを介して呼吸を補助し、患者さん自身の呼吸の負担を軽減します。

4. 炎症を抑える:ステロイド薬

急性増悪の引き金となっている気道の「炎症」を抑えるため、強力な抗炎症作用を持つステロイド薬を投与します。

相棒:メチルプレドニゾロン (Methylprednisolone / ソルメドロール)
中等症から重症の増悪に対して、125mgを静脈から投与します。根本的な炎症を抑えることで、症状の改善と再発防止に繋がります。


まとめ

COPD急性増悪との戦いは、慢性的な病態を理解した上での、的確な急性期介入が求められます。

  1. 酸素投与は、CO2ナルコーシスを警戒し、目標SaO2を90%前後に設定する。
  2. 吸入薬(アルブテロール+イプラトロピウム)で、気管支をしっかりと広げる。
  3. 重症例では、CPAP/BiPAPで呼吸の負担を軽減する。
  4. 根本原因である炎症に対し、ステロイド薬を投与する。

長い時間をかけて進行してきた病気の、急な変化を見逃さない。そして、患者さん一人ひとりの状態に合わせた、慎重かつ大胆な治療を選択する。それが、COPD急性増悪の現場における私たちの役割なのです。